長崎市のMICE建設計画について(その4)

 長崎市が計画しているMICE建設計画について、市は7月に入り、市民向けの説明会を5回にわたり開催しました。
 この説明会では、田上市長自らが、約1時間半にわたりMICEとは何か、またMICEの有効性や現在検討中の施設の整備概要などについて説明したようですが、そもそも今になって市民の理解を得るために説明会を開催すること自体、遅きに失した感があります。
 これまでも述べてきた通り、市は、既に建設予定地の土壌汚染状況を把握するための調査費予算を議会で成立させてきており、MICE建設は既定路線となっています。本来であれば、市民への説明会は、用地交渉を行う前に開催し、その段階で建設の是非を市民に問うべきですが、今となっては事実上、決定した内容を理解してもらうための説明会としか思えません。

 また、同説明会で、市はMICE施設建設による経済波及効果を約123億円と述べているようですが、それは学会、一般会議等や展示会・イベントの開催件数が年間869件、利用者数が延59万人ということを前提にしており、これは過去の長崎市でのコンベンション開催実績に基づき、試算しているようです。
 但し、市は、この869件について、コンベンションの規模別(人数ベース)の内訳を明らかにしておりませんので、その詳細についても公表すべきと考えます。
 下表の通り、平成25年長崎市観光統計によれば、同年に長崎市内で開催されたコンベンション件数は1071件(参加人員は約36万人)ですが、その中には、国体のリハーサルや九州北部総体等のスポーツコンベンション303件(参加人員約18万人)を含んでいます。さらに、これを規模別(人数ベース)にみると、100人未満の件数が396件(37%)、100人以上300人未満が395件(36.9%)と、300人未満の小規模のものが7割以上を占めており、大半が県内大会規模です。
 このような小規模なコンベンションが、今後新たに大規模な施設が整備されたからといって、必ずしもそれを利用することになるとは限りません。
 したがって、想定している869件を達成するためには、九州大会以上の大規模なコンベンションを、これまで以上に数多く誘致することが求められますが、それを確実に実現することができるのでしょうか。
 同統計によれば、1000人以上2000人未満のコンベンション開催実績は41件、2000人以上でも33件あり、新たに約216億円(用地費約72億円、建設費約144億円)もの巨費を投じなくても、現状でも既存施設を活用して大規模なものが開催されていることが分かります。
 私の知事時代にも、水辺の森公園に5000人収用可能なコンベンション施設の建設を検討しましたが、この計画では用地費が約29億円、建設費は約30億円でした。2000人から3000人規模のコンベンションは、ブリックホールや県立体育館、長崎市民会館等の既存施設を活用して開催出来ますが、それ以上の規模のものに対応出来なかったことから、4000~5000人規模の大型コンベンションや展示会、見本市などを一箇所で開催できる施設を検討した次第ですが、これを造ったところで、大規模なコンベンションをそれ迄以上に誘致するには限界があり、施設を活かせる見通しが低かったことと、運営も難しかったことから計画をとりやめた経緯があります。
 現在の計画では、用地取得費だけで、その時の全体額を超えておりますが、本当にこれだけの額を投資する必要性があるのか、また、その投資効果を得られるのか疑問です。
 約72億円もの用地を取得して新たな施設を建設しなくても、既存施設を活用すれば大規模なコンベンションが開催できることは、上記の通り明らかであり、これだけの投資額を他の観光振興策に振り向ければ、リピーターの確保策などソフト・ハード両面で様々なことが実現できます。箱物に巨費を投じるよりも、2つの世界遺産候補など既存の観光資源・観光施設が更に活かされるよう、魅力を上げていくような施策や、コンベンション後の催しや懇親会など、アフターコンベンションの中身を充実することを優先すべきと考えます。また、稲佐山に誕生したようなポテンシャルの高いホテルも必要と考えますが、今長崎周辺にある大型ホテルには耐震対策が求められているものも数多くあります。このような観光振興につながる既存建築物については、市が財政的にバックアップして耐震改修や建替えを促進することも検討すべきと考えます。
 また、市長は同説明会の中で、新たなMICE施設を建設しなければ長崎の観光は伸びないというような説明をしているようですが、これに対して、県観光連盟は施設を建設しなくても努力次第で観光客の誘致が出来ると話しています。
 全国の観光都市に目を向けてみると、MICE施設がなくても、例えば金沢市のように従来から評価が高いところがあります。このような他都市が、どのように観光振興に取り組んでいるのかについても、市は調査・検討すべきです。
 九州だけでも各地でMICE建設が検討される中、他県同様に大きな箱物を造ったからといって、大規模なコンベンションを、これ迄以上に数多く誘致できる保証はありません。
 以上のことから、経済波及効果の前提となる開催件数869件が、現実的な数字なのか極めて疑問であり、客観的な検証が必要です。前提条件が現実的でなければ、123億円という経済波及効果も非現実的なものとなります。
 行政が楽観的な見通しに基づいた試算だけを公表し、市民に対して過大な期待を抱かせることは、厳に慎まなければなりません。

 長崎市は他都市でコンベンションを開催した方々へのアンケートの結果、長崎を選択しなかった理由として、長崎にMICE施設がないことが大きな理由だったとしているようですが、これは断りやすい理由で挙げていると考えられ、そのようなものに惑わされるべきではないと考えます。

 また、現在の計画では、新たに造る施設の供用開始は平成31年度の予定であり、現在2期目の田上市長が4期目の時となります。税金による多額の投資をした結果、成功すれば、それに越したことはありませんが、万一成功できなかった場合は、誰がどのように責任をとるのでしょうか。現在これを推進している市長もいずれは替わりますし、仮に議会が承認したとしても、議員も選挙のたびに入れ替わります。巨額の投資を行い、万一うまくいかなかった場合、現在の市長も議員も責任を取ることは出来ません。
 このようなことからも、将来の長崎市の財政を大きく左右することになりかねないMICE建設計画については、慎重に検討すべきと改めて考える次第です。