長崎市のMICE建設計画について(その2)

 先般、長崎市のMICE建設計画について私の考えを述べさせて頂きましたが、前回に続き、これについて私の思うことを書かせて頂きます。

 長崎市は6月議会に、MICE施設の計画予定地における土壌汚染の状況を把握するための調査費を含む補正予算を提出しました。これについて私は以下の理由により疑問を感じています。
 土壌汚染の状況を把握するための調査費計上は、用地購入を前提としたものでありますが、現状ではMICE施設の用地購入は議会で承認されていません。また長崎市は7月に市民向けの説明会を開催し、今後MICE施設建設に対する市民の理解を得ようとしているようですが、現時点で市民の理解が十分に得られているとは言えません。
 このような中で調査費を計上した補正予算を議会に提出することは既成事実をつくろうと思わざるを得ず、私自身、知事として県政を運営してきましたが、行政のあり方として疑問を感じています。田上市長は用地購入を前提にして物事を進めているように思われますが、これは手続き上問題があるのではないかと考えます。
 また、仮に議会がこの予算を認めることになれば、議会として事実上MICE施設の用地購入を認めたことになるのではないでしょうか。

 特に私が驚きを感じているのは、6月16日の毎日新聞記事「踊る大会議場-長崎MICE計画-」によれば、この計画について議会にも諮らず、市民の意見も聞いていない昨年11月時点で、長崎財界が政府に対し、MICE施設の建設候補地を所有するJR貨物との土地売買について協力を求め、さらに今年3月時点で既に長崎市が「用地取得についてJR貨物と大筋合意」していたことです。議会や市民に対する説明を行う前に、ここまでの交渉を行った市の姿勢は行政の常識では考えられません。また、地元財界は8月に「誘致推進協議会(仮称)」を設立するとのことですが、このように既成事実を積み重ねるような財界の行動も理解に苦しみます。なお同記事では、財界が県選出国会議員を通さずに官邸と交渉したことによって県政界の反発が強まったと書かれておりますが、それは無関係であり、私の場合、知事として長年行政に関わってきた経験上、今回の計画の進め方、必要性に疑問を感じている次第です。

 県庁舎の移転にあたって現庁舎の周辺住民の方々から反対意見が出されたように、既存の箱物がなくなる際には地域住民は不安に感じるものですが、逆に公共事業で新たな箱物を造る際には、それが地域振興につながるのではないかという大きな期待感(時には錯覚や幻想)が抱かれ、箱物事業が推進される傾向が一般的にあります。
 私が知事在任中に市町村合併を推進したところ、合併前は各町が町外からの多くの集客を期待して、町単位で人口規模以上のホールやイベント会場などの箱物等が県内の至る所に造られましたが、このように地域活性化を期待して行った事業が、結果的にはその後十分に活かされることなく、現在の各自治体財政を圧迫しています。
 6月11日の長崎新聞において、長崎市は「コンベンション施設を整備し、これまで取りこぼしていた学会等の会議等を誘致し、従来の観光客とは異なる新たな客層を呼び込み、地域経済の活性化を図りたい」と主張していますが、実際に年間でどれだけ増加が見込まれ、プラスになるのか、合併前に各町が行ったことと同じような事態にならないか懸念されます。

 また、MICE施設は、企業等のミーティングやレセプション、表彰式、学会や文化イベント、展示会など幅広い目的での利用を見込むものですが、数千人規模の会議等を含む幅広いイベントが新たに造るMICE施設一箇所に集中することになれば、その分、これまで会議や分科会等で使用されてきた各ホテルや結婚式場の会議室等が利用されなくなり、既存の施設が打撃を受けることも考えられます。長崎市はMICEの経済波及効果は年間140億円と見込んでいるようですが、MICEの運営が仮に上手くいっても、既存施設にとっては逆にマイナスとなる可能性すらあるのではないでしょうか。
 MICE施設に過大な期待感を抱き、建設ありきで拙速に物事を進めるのではなく、以上述べたようなことも含めて様々な側面からメリット・デメリットを慎重に検討、議論した上で結論を出すべきではないかと改めて思う次第です。